02:“届けたい相手”を見続けたブランドづくり

The Journey of ANIDASO part2

世界の「児童労働」の撤廃と予防に取り組む国際協力NGO、ACEの活動25年を記念して生まれた「ANIDASOƆ-アニダソ」チョコレートの背景を追いかける本連載。第2回と第3回は、ACEのふたりと一緒にチョコレート作りに携わった、クラウン製菓の鶴田絹さんと、チョコレートジャーナリストの市川歩美さんにも加わっていただきました。

ブランドコンセプト、パッケージ、大きさ、レシピなど……。お店に行けば当たり前のように売られているチョコレートですが、一から作るのには決めなければいけないことがたくさんあります。児童労働の現状やACEの活動を伝えるチョコレートだからこそ、妥協はしたくない。カカオ生産国の課題に取り組むNGO職員、チョコレートの原料から製造まで向き合う工場長、チョコレート専門ジャーナリスト——それぞれの強みが結集した「チーム・アニダソ」が、オリジナルチョコレートを形にしていった道のりを前後編でお届けします。

前編では、コンセプトや商品名、パッケージづくりなど怒涛のチョコレートづくりの裏話をお伝えします。まっさらだった初回ミーティングから、どうやって今の形の「ANIDASOƆ-アニダソ」チョコレートが生まれたのでしょうか。

白木朋子/特定非営利活動法人 ACE 副代表
大学在籍中に代表の岩附由香とともにACEを創業。開発援助コンサルティング会社での勤務を経て、2005年4月から2021年11月までACE事務局長を務め、2021年からは同副代表に就任。「しあわせへのチョコレートプロジェクト」を2009年の開始時よりリード。ガーナ・カカオ生産地での事業立案から、企業との連携、ガーナ政府の「児童労働フリーゾーン」の制度構築支援にも携わる。著書として「子どもたちにしあわせを運ぶチョコレート」(2015年、合同出版)がある。

佐藤有希子/特定非営利活動法人 ACE ソーシャルビジネス推進事業 チーフ
企業(消費財メーカー)での海外営業やサプライチェーン管理の経験を経て、MBA取得後、開発経済学を学び2018年ACEに入職。​児童労働のない経済循環の実現を目指し、個別企業の活動を通じた取り組みの支援や啓発と、国内外の多様なステークホルダーとの連携を通じた取り組みの促進に従事。

鶴田絹/株式会社クラウン製菓 取締役 工場長
カカオ専門商社(株)立花商店にて勤務、産地別カカオの調達と普及及びフェアトレードチョコレートの開発と普及を担当。 現在はグループ会社であるチョコレート工場(株)クラウン製菓にて取締役兼工場長も務める。

市川歩美/チョコレートジャーナリスト
大学卒業後、放送局で長年ディレクターとして番組企画・制作に携わる。現在はチョコレートを主なテーマに掲げるジャーナリストとして、カカオ生産地をはじめとした世界各国を取材し、情報を発信している。チョコレートの魅力を広く伝える、ショコラコーディネーターとしても活動。商品監修や開発のコンサルティングも行う。

ACEを10年以上知る、ふたりを迎えて。

ーー前回は、ACEのおふたりが「オリジナルチョコレートを作ろう」と動き出すまでのお話を伺いました。鶴田さんと市川さんは、最初にチームに誘われたときのことを覚えていますか。

鶴田:具体的にいつだったかは覚えていないのですが、以前から「25周年にチョコレートを作りたい」と、ちらりと聞いていたような。だから、お話を聞いたときは「ついに来た!」という感じでした(笑)

白木:鶴田さんとは、もう10年以上のお付き合いですよね。クラウン製菓で工場長になる前、グループ会社の立花商店にいるときから、ACEのカカオ豆を使ったチョコレートをいくつも企画、提案してくださいました。ありがとうございます。

鶴田:私自身、カカオ生産者さんのことや背景を伝えたいと思いながらチョコレートに関わる仕事をしています。ACEと出会ってからは特に、カカオ豆の調達やチョコレート製造などの自分ができる範囲でお役に立てたらと思っていたので、今回もご一緒できて嬉しいです。

市川歩美さんと鶴田絹さん
チョコレートジャーナリストの市川歩美さん(左)と、クラウン製菓の鶴田絹さん(右)

佐藤:歩美さんとは、以前にイベントで知り合ったんでしたっけ。

市川:2010年に、ACEがイベントをしていた会場の前をたまたま通りかかったんです。「チョコレート」と聞いて、気づいたら会場に吸い込まれていました(笑)

白木:そうでしたね。当時は「ゆくゆくはACEが活動している地域のカカオ豆を使って、チョコレートが作れたら……」と話をしつつ、まだなにもアテがない時期。イベント後に歩美さんが話しかけてくれて「ずっと応援してます!」って言ってくれたんです。

市川:今では一緒にガーナを訪れたり、チョコレートを作ったりできて、あの頃から考えると感慨深いですね。

白木:本当にそうですね。

自分たちがもらって嬉しいのは、どんなチョコレート?

ーー4月末のキックオフミーティングでは、チョコレート作りに向けてどのような話し合いをしたんでしょうか。

佐藤:ACEの活動地域のカカオ豆を使うこと以外は、本当になにも決まってなかったんです。だから、まずは「なにを決めるか」を洗い出すところから始めるような状態。ただ、最初のキックオフミーティングからコンセプトや役割を話して盛り上がった記憶があります。

市川:私は長年メディアの仕事をしているので、全体のコンセプトや見せ方について「ちゃんと届くポイント」を抑えたいと話しましたね。個人的にも、ACEの活動がもっと広がって欲しい!という想いを10年以上抱き続けているので、この機会に絶対にいいものを作って広めたいと思ったんです。

佐藤:歩美さんが「オシャレな某セレクトショップにありそうな雰囲気がいい!」と言っていたのが印象的で、その後なにかを考えるときの指針になっていました。

鶴田:自分自身のために買っても、人にプレゼントしても喜ばれるようなものがいいよねと話しましたよね。「自分がもらって嬉しいものを作ろう」というのは、何度もみんなで言っていたと思います。

アニダソのパッケージ

ーー実際、「ANIDASOƆ-アニダソ」チョコレートのパッケージは、洗練されていてプレゼントにもしやすいと思いました。

市川:嬉しいですね!パッケージはメディアの誌面を彩るので、かなり力を入れたところです。佐藤さんが、かなりこだわってデザイナーさんと調整してくれました。

佐藤:「てんとう虫の大きさ、これだとカブトムシくらいの大きさじゃない?」とか言いながらね(笑)。カカオの色合いがガーナの国旗、てんとう虫と葉っぱが日本の国旗をイメージしてるんです。

白木:てんとう虫は、ガーナでの活動当初にACEが販売していた「しあわせを運ぶ てんとう虫チョコレート」の名残から来ています。2017年で販売は終了してしまいましたが、ACEを長く知っている方は覚えているかもしれません。

鶴田:内側の説明もかなりシンプルですよね。最初、もっと児童労働について詳しく書くのかと思ってたんですよ。それを歩美さんがバサッとカットしたのが目から鱗でした。

市川:もちろん児童労働について知ってもらうことは大事ですが、楽しくチョコレートを食べるときに長文の説明は必要ないと思ったんです。文章量が多ければ伝わるわけではないので、あくまでも“最初のきっかけ”になればいいと話したんですよね。

佐藤:そうそう、ACEのロゴも外側にはあえて入れなかったんです。詳しい情報は、パッケージのQRコードから「ANIDASOƆ-アニダソ」チョコレートの特設サイトに飛んで見てもらえるように工夫しました。

アニダソチョコレートのパッケージの内側

白木:ちなみに裏側の英文は、有希子さんの手書き。“有希子フォント”です(笑)

鶴田・市川:え!知らなかった!すごい!!

佐藤:昔カリグラフィーをやっていたことがあったんです。これは取り込んだときにまっすぐになるように、いくつも書きました。

鶴田:完全に売り物のフォントだと思ってました。

市川:副業でフォント屋できるレベルですよ!(笑)

裏側の英文

チュイ語の「希望」に、商品名が決まるまで。

ーー今回、特に象徴的なのは商品名の「ANIDASOƆ-アニダソ」だと思います。ガーナで使われている言葉のチュイ語を採用した経緯を教えてください。

佐藤:4人でアイディアを出し合うだけでなく、ACEのスタッフのなかでも募集したんです。そうしたら、ガーナ現地での活動を推進する「スマイル・ガーナプロジェクト」の担当者である赤堀さんから、いくつかチュイ語での案が届きました。

鶴田:現地で活動しているからこその想いが詰まっていますよね。

白木:歩美さんが「かっこいいね!」って言ったのをすごく覚えてる。

鶴田:他にどんな候補がありましたっけ。あ!私は「ヤーサントゥーワ」が推しでした。

市川:ああ!「ヤーサントゥーワ」ね!

白木:「ヤーサントゥーワ」は、私が最初にガーナに行ったときに現地のパートナー団体の事務局長がつけてくれたガーナ名です。イギリスからの独立をかけて戦った歴史上の女性の名前なんです。

鶴田:ガーナの人々にとってはジャンヌ・ダルクのような存在なんですよね。私は、これまでの白木さんの活動を表す商品になってほしいという気持ちがあって「ヤーサントゥーワ」に1票入れたんですけど、ちょっとね、長かったかな。

佐藤:「アニダソ」は覚えやすいし、やっぱり「希望」という意味合いもすごくいいよねって、みんなで決めましたね。あと、チュイ語だと他の商品と名前が被らないのがよかったです。最後の文字は日本語にも英語にもないものなので、ロゴとしても独特なものになりました。

白木:今後、仮になにか違う味のチョコレートを作ることがあれば、別のチュイ語の名前をつけて、「ANIDASOƆ-アニダソ」をシリーズ化してもいいのかもしれない、みたいな話で盛り上がりましたね。

アニダソのロゴ

みんなが気持ちを贈るチョコレートに。

市川:まだ「ANIDASOƆ-アニダソ」チョコレートを作ったばかりですけど、いろいろな方にご紹介するなかで「第2弾の予定はないんですか?」と聞かれることも多いんですよ。

佐藤:それは嬉しいですね!今後、活動地域のカカオ豆ではなくても、ACEの活動を伝えるチョコレートとして続けていけたらいいな。

鶴田:そうですね。活動地域のカカオ豆から、どんどんガーナ全体に広がっていくのもいいなと思います。

市川:いろいろな展開が考えられて楽しみですよね!例えば、今回はパッケージを有希子さんの知り合いのデザイナーさんにお願いしましたが、第2弾は別のデザイナーさんを募集してもいいですね。「2025年の『ANIDASOƆ-アニダソ』のデザインはこの方です」みたいな感じになってもいいな、と考えてます。

白木:いいね、ボジョレーヌーヴォーみたい。

市川:デザイナーさんだけじゃなく、このチョコレートにみんなが少しずつ関わってくれたら、支援の輪が広がっていく気がします。これまでみんな、カカオ生産地の現状を気にしながらも「じゃあどうすればいいんだろう」と、自分にできることを探していたんじゃないかと思うんですね。

白木:そうですね。

市川:「ANIDASOƆ-アニダソ」チョコレートは、そういう方々が関わる選択肢のひとつになってくれると思います。おいしいチョコレートを楽しんだり、人に贈ったりすると、500円が自動的に寄付になり、子どもたちへの支援へとつながるという明確な関わり方の道筋がある。カカオ産地のみなさんに「いつもありがとうございます」と伝える方法のひとつとして、感謝と応援の気持ちを送ってほしいと思います。

4人で対談する

後半は、チョコレートを作る上で重要な「味」についての話を伺っていきます。「ANIDASOƆ-アニダソ」チョコレートには、一般的なチョコレートには入っていない“あるもの”が入っています。グッとおいしさが増したという隠し味とは、一体なんだったのでしょうか。

「ANIDASOƆ-アニダソ」チョコレートの詳細、販売店情報はこちらからご覧ください。

【The journey of ANIDASOƆ】
01:25年間の「希望」をつなぐチョコレート
02:“届けたい相手”を見続けたブランドづくり
03:「支援だからこそ」こだわりたかった味への想い
04:世界を変える選択が、あなたにもあると知ってほしい

(取材・執筆:ウィルソン麻菜)