04:世界を変える選択が、あなたにもあると知ってほしい

アニダソのパッケージとカカオ豆

世界の「児童労働」の撤廃と予防に取り組む国際協力NGO、ACEの25年の活動を記念して作られた「ANIDASOƆ-アニダソ」チョコレートが生まれた背景を、全4回に渡ってお伝えしてきた本連載。最終回となる今回は、ACEの副代表を勤める白木さんと、チョコレートジャーナリストの市川歩美さんの対談をお届けします。

「ANIDASOƆ-アニダソ」チョコレートが発売される直前の2023年11月、ガーナにあるACEの活動地域を訪れたふたり。現在進行形でプロジェクトを進めている村と、2年前にプロジェクトを終了した村を回りました。カカオ農園で働く住民や学校に通う子どもたちの現状に触れ、児童労働の撤廃に向き合う人々との対話を経て、旅のなかでどのようなことを感じたのでしょうか。ガーナを訪れたからこそ、改めて強くなった「ANIDASOƆ-アニダソ」チョコレートへの想いを伺いました。

白木朋子/特定非営利活動法人 ACE 副代表
大学在籍中に代表の岩附由香とともにACEを創業。開発援助コンサルティング会社での勤務を経て、2005年4月から2021年11月までACE事務局長を務め、2021年からは同副代表に就任。「しあわせへのチョコレートプロジェクト」を2009年の開始時よりリード。ガーナ・カカオ生産地での事業立案から、企業との連携、ガーナ政府の「児童労働フリーゾーン」の制度構築支援にも携わる。著書として「子どもたちにしあわせを運ぶチョコレート」(2015年、合同出版)がある。

市川歩美/チョコレートジャーナリスト
大学卒業後、放送局で長年ディレクターとして番組企画・制作に携わる。現在はチョコレートを主なテーマに掲げるジャーナリストとして、カカオ生産地をはじめとした世界各国を取材し、情報を発信している。チョコレートの魅力を広く伝える、ショコラコーディネーターとしても活動。商品監修や開発のコンサルティングも行う。

ガーナを訪れて、感じたこと。

ACEの支援地域ガーナの子どもたち

ーーおふたりはアニダソチョコレートの発売前に、実際にガーナに行かれていたと伺いました。どのような場所を訪れたのですか?

白木:一週間弱ガーナに滞在して、ACEの活動地域を訪れたり、現地の政府機関や大手原料メーカーを訪問したりしました。歩美さんは初めてのガーナでしたが、実際に行かれてどうでしたか?

市川:そうですね。本当にいろいろな驚きがありました。例えば、ガーナの首都であるアクラとACEの活動地域がある村と、両方を見せていただいて、同じ国内でもまったく違う世界だと驚いたんです。首都のアクラはすごく都会で、大きなビルのあいだを車が走っているような感じ。東京の人が訪れても、そこまで違和感を感じないんじゃないかな。

白木:暑いことを除けば、たしかにそうかもしれないですね。

市川:そのアクラから40分くらい国内線の飛行機で飛んだ先が、第二の都市クマシです。クマシも中心部は栄えているんですけど、そこから活動地域に向けて少し車で走ると道が舗装されていない赤土なんですね。そして、ヤギやニワトリが駆け回っていたりする。白木さんに「あれはなんですか?」と聞くと、「ああ、食用です」とか普通に言うわけですよ(笑)

白木:そうでしたね(笑)

市川:活動地域に着く頃には、水道や電気もなくて、みんな裸足で水を汲みに行っているような状況で。そのギャップにとても驚きました。

白木:日本では、どこに行っても基本的にはインフラが整っていますもんね。

市川:あと現地に行って思ったのは、今の時代、わかった気になっていることが多いんじゃないかな、ということ。情報源として本や動画は活用していましたが、実際に行ってみると気温や匂いも含めていろいろな発見がありました。その実感があったからこそ、「ANIDASOƆ-アニダソ」チョコレートも本気でおすすめして歩いているんだと思います。

白木:歩美さんは「ANIDASOƆ-アニダソ」チョコレートを先頭切って広めてくれて、本当にありがたいです。そして私にとっては、ACEの外にいる方が、これだけ一生懸命にガーナや児童労働のことを話してくれることが本当に感慨深いんです。

旅で目の当たりにした「白木力」。

チョコレートジャーナリストの市川歩美さん

市川:私ね、今までも白木さんをすごい人だと思っていましたけど、ガーナに一緒に行ってとても頼もしいと思ったんです。現地での白木さんを間近で見ながら「白木力(しろきりょく)」を感じていました。

白木:シロキリョク……?

市川:そう、白木力、と勝手に名付けました。白木さんの力、なにがすごいかって、まず細かいことを気にしない!例えば、カカオ農園で急遽迎えの車に来てもらう話になったときに、私が少し心配になって「ちゃんと来てくれますかね?」みたいなことを聞いたんですけど、白木さんが「そのうち来ますから大丈夫ですよ〜」と言って飄々としているわけです。そういうことが多々あって。

白木:(笑)

市川:でも、一方で大事なところはキッチリと押さえているから、ちゃんと物事は進むんですね。気にする必要がないことは気にせず、ゴールに向かって確実に進んでいく、ということが目的を達成するのに大切なんだなと学びました。

白木:たしかに、「気にしなくていいことを気にしない」というのは、目標達成において大事なことだと思って日々生きている気がします(笑)

市川:「大丈夫かな、計画どおりにいくかな」と心配してしまうことってあるじゃないですか。それで余計なエネルギーを消耗してしまったりもする。私もぜひ、「白木力」をつけたいなと思いましたね。

白木:ガーナで仕事をしていると自分の力ではどうにもコントロールできないことが多いので、そうやって乗り越えてきているところはあるのかな。最後にちゃんと押さえるところを押さえれば、途中は多少のらりくらりしてても大丈夫だというのは、長年ガーナの人たちと仕事をするなかで、学んで身につけてきたのかもしれないですね。

市川:実際に現地に行って、ガーナの人たちと一緒に仕事をしているACEは本当にすごいなと思いました。文化も考え方も違う上に、あの国ならではの構造や課題もあって。私だったら途方にくれて、やめようかなと思ってしまうかもしれない。そこでずっと活動を続けていくには、やっぱり「白木力」が大事なんですよね。

ACE副代表の白木とガーナ女性

ガーナの人と国の温かさに支えられて。

白木:途上国で仕事をする大変さは、きっとどの国でも似ているとは思うんですよね。

市川:きっとそうですよね。

白木:でも、私がずっと情熱を傾けて仕事ができているのは、ガーナのお国柄や人の良さがあると思います。今までガーナで仕事をしてきて大変なこともありますけど、最後はみんなのおかげでなんとかなる、という感じなんですよね。

市川:たしかに、みんな外から来た私にも優しくしてくれて、人柄の良さをすごく感じました。

チョコレートジャーナリストの市川歩美さんと優しいガーナ人

白木:ACE著作の「チェンジの扉〜児童労働に向き合って気づいたこと〜」にも書いたんですけど、プロジェクト立ち上げ当初から、私はガーナの人たちに守られてきたんです。私がひとりでプロジェクトのために村に来ているとわかっているから、みんな世話を焼いてくれました。熟れたマンゴーやバナナ、ヤギまでプレゼントしていただいたこともあって(笑)。当時東京で一人暮らしをしていた私にとって、そういう人の温かさが本当に嬉しかったんです。

市川:わかります。私が歩いていると、みんな「マダム!」と言いながら手を振って明るく挨拶してくれるんですよね。食べ物を分けてくれようとしたり、なにか必要なものはないかと聞いてくれたりする。現地で感じた彼らの温かさを思い出すと、今でも涙が出そうです。

白木:本当に涙出ちゃいますよね。

ACEの活動地域で学校の給食を作っている女性

市川:活動地域で、給食を作っているところを見学させてもらったのを覚えてますか?おばさんがニコニコしながら、「ジョロフライス」と呼ばれる混ぜごはんみたいなものを作っていましたよね。

白木:薪で火を炊いて作っていましたね。

市川:混ぜごはんをタッパーに入れたものを給食として配ると、子どもたちが本当に嬉しそうな顔をしていたのが印象的でした。「給食」と言っても、本当にそのごはんだけ。それでも、子どもたちにとっては安心して学校に来られる理由になるんですよね。

白木:そうですね。

市川:子どもたちの半月分の給食費が、だいたい500円だと聞いて、私の500円を彼らのために使いたいと心から思いました。「ANIDASOƆ-アニダソ」チョコレート1枚を買うと、ちょうど500円が寄付になるので、今もあの子どもたちの嬉しそうな顔を思い浮かべながら「ANIDASOƆ-アニダソ」チョコレートを人に紹介しています。

白木:すごくよくわかります。

ACE活動地域の学校の様子
タッパーに入った給食を受け取る子ども

正解はわからない、だからこそ“みんな”で。

白木:今回、歩美さんが初めてガーナを訪れる機会にご一緒して、私自身が最初に現地を訪れたときのことを思い出していました。私も含めた世界中の人たちがチョコレートでこんなにも幸せにしてもらっている。なのに、カカオ豆を作っている人たちが、最低限の安全な水さえ飲めない世界ってどういうこと?と思ったんですよね。こんなにも便利になっているはずの時代に、どうして?って。

市川:本当に、そのとおりですよね。

白木:それを「どうにかしたい」というのが、私の最初のモチベーションでした。さっきも話したとおり、私はプロジェクト当初からガーナの人たちに本当にお世話になって、ご恩があります。それに報いたいというか、やっぱり自分にできることをしたいという気持ちで、ここまで来た感じなんです。

市川:白木さんの想いは現地でもすごく感じました。クマシからアクラへの移動中の飛行機で、ふたりで話していたら、泣いちゃったんです。「足腰が痛いけど働かなきゃ」と話すカカオ農園のおばあちゃんや、学校には行っているけど、生活のために家事や農園の仕事を手伝わなくてはいけない小さな女の子。彼女たちを思い出していたときです。

白木:歩美さんが「彼女たちの目が忘れられない」と話してくれたんですよね。それは「どうしたらいいかわからない目」なんだと、私は思うんです。その途方に暮れた不安感は、私のなかにもあるから、すごくよくわかる。児童労働の現場は本当に果てしなくて、常に「これで本当に解決できるのか」と思いながら、それでもここで諦めるわけにはいかない。私にもわからない、でもやらなきゃ、そんな気持ちなんです。

市川:白木さんが泣きながら「私にも正解はわからない。だからこそ、いろいろな人の力が必要なんです」と話してくれたとき、本当に心を込めて活動してる人だと思ったのを覚えています。

白木:谷川俊太郎さんがACEのために作ってくれた『そのこ』という詩があって、その最後に「そのこのみらいのためになにができるか だれかぼくにおしえてほしい」という一説があります。その投げかけのとおり、「どうすればいいの」という気持ちで、とにかくもがいている。だから、いろいろな人と協力しながら前に進みたいし、「みんなで考えたい」と思っています。

対談をするACE副代表の白木朋子

市川:私ね、現地に行って「ごめんなさい」という気持ちになっちゃったんです。私自身5歳のときからチョコレートが大好きで、仕事にしてしまうほど本当にチョコレートが好きなんですよね。それなのに、カカオ豆を作っている人たちがこんなことになってるなんて、ACEに出会うまで知る機会もなかった。今回、ガーナの方々のお話を直接聞いて「ごめんなさい」と「ありがとうございます」が混じったような感情になったんです。

白木:私もチョコレートが好きだから、歩美さんのその気持ちがよくわかります。でも、児童労働のことを知って「チョコレートを食べてごめんなさい」とは思ってほしくないんですよね。ただ、何も知らずにチョコレートを食べ続けるだけでは、今の世界は変わらないということには気づいてほしいな、と私は思っています。

市川:そのとおりですね。

白木:そして、世界を変える方法のひとつが、この「ANIDASOƆ-アニダソ」チョコレートなんだと思うんですよね。このチョコレートの寄付は、確実にACEが子どもたちのために使います。それは絶対に、私たちがお約束します。そんな支援につながるチョコレートを意志を持って選ぶことで、世界を変える一端を担うことができると伝えたいです。そして、「ごめんなさい」ではなくて、幸せなおいしさをいろいろな人たちと分かち合ってもらいたいと思います。

対談を終えたACE副代表白木朋子とチョコレートジャーナリスト市川歩美さん

<編集後記にかえて>

ここまで連載をお読みいただき、ありがとうございました!国を超えたくさんの方々が関わって、ひとつのチョコレートが生まれていることを、チョコレートを食べる私たちは、普段の生活でつい忘れそうになります。そのつい忘れてしまいがちなことを、こうやって文章にしてお届けできたことを嬉しく思います。

白木さんから「『ANIDASOƆ-アニダソ』チョコレートの背景を記事にしたい」とご相談いただいたとき、一番に思い浮かんだのは「関わる方々の想いを、ちゃんと知ってもらいたい」ということでした。今回、みなさんの「児童労働をなくしたい」という気持ちを受け取って、本連載の言葉ひとつひとつに込めたつもりです。

私自身、学生時代にACEに出会い、初めて児童労働の現実を知りました。自分が食べているチョコレートが、実は誰かの苦しい生活の上に成り立っていたことがショックで、本連載に登場したみなさんと同じように「自分にはなにができるんだろう」と模索しながら、現在はライターとして活動しています。

私がACEでインターンシップをしていた頃から10年以上が経ち、ACEも活動25周年を迎えました。それでもまだ、世界から児童労働はなくならず、世界は変えられないのか?という気持ちにさえなります。ただ、今回の連載をとおして感じたのは、10年前には夢のようだった「活動地域のカカオ豆で素敵なチョコレートを作る」ことができるほどに、人の心を動かし続けるACEの“前進”だったようにも思います。

ただ、チョコレートを作ることができただけでは児童労働はなくならない、と白木さんと市川さんは言います。私自身、最終回のなかで、白木さんから「私だって途方に暮れることもある」という言葉が出たときに、改めて「ACEに任せるのでなく、“私たちで”変えていく必要があるんだ」と、力が入ったことを忘れたくありません。

この連載をとおして、ひとりでも「ANIDASOƆ-アニダソ」チョコレートの存在を知り、児童労働の現状に気づいてくれる人がいたらいいなと思います。チョコレートを食べる私たちから、変えていく。そのひとりの行動から、きっと「希望」は、波紋のように広がっていくのだと信じて。

「ANIDASOƆ-アニダソ」チョコレートの詳細、販売店情報はこちらからご覧ください。

【The journey of ANIDASOƆ】
01:25年間の「希望」をつなぐチョコレート
02:“届けたい相手”を見続けたブランドづくり
03:「支援だからこそ」こだわりたかった味への想い
04:世界を変える選択が、あなたにもあると知ってほしい

(取材・執筆:ウィルソン麻菜)