01:25年間の「希望」をつなぐチョコレート

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世界の「児童労働」の撤廃と予防に取り組む国際協力NGOのACE。子どもたちが学校に行くことができずに危険な労働を強いられている状況を変えようと、民間や行政にはたらきかけを続けています。

なかでも2009年から積極的に取り組んできたのが、チョコレートの原料となるカカオ生産地域での児童労働の撤廃です。チョコレートの背景にある児童労働を日本の人々に伝えながら、ガーナ現地での活動を通して、これまでに622人の子どもたち(2023年6月時点)を児童労働から解放してきました。

(児童労働のないチョコレートがあたりまえに手に入る社会の実現を目指した活動『「しあわせへのチョコレート」プロジェクト』について、詳しくはこちらをご覧ください。)

今回、ACEの活動25周年を迎えるにあたり、これまで活動してきた地域のカカオ豆を使った「ANIDASOƆ-アニダソ」チョコレートが誕生しました。この連載では全4回に渡り、「ANIDASOƆ-アニダソ」チョコレートの生まれた背景を追いかけます。ひとつのチョコレートが生まれるまでに、どんな人たちが関わり、どんな想いが込められているのか。ストーリーとともに「ANIDASOƆ-アニダソ」チョコレートを楽しんでいただければと思います。

第1回目は、ACE副代表・共同創業者の白木朋子さんと、ソーシャルビジネス推進事業チーフの佐藤有希子さんに、25周年チョコレートを作ることになったきっかけを聞きました。ガーナで使われるチュイ語で『希望』を意味する「ANIDASOƆ-アニダソ」と名付けられたチョコレート。ACEのふたりが込めた“希望”について伺います。

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白木朋子/特定非営利活動法人 ACE 副代表
大学在籍中に代表の岩附由香とともにACEを創業。開発援助コンサルティング会社での勤務を経て、2005年4月から2021年11月までACE事務局長を務め、2021年からは同副代表に就任。「しあわせへのチョコレートプロジェクト」を2009年の開始時よりリード。ガーナ・カカオ生産地での事業立案から、企業との連携、ガーナ政府の「児童労働フリーゾーン」の制度構築支援にも携わる。著書として「子どもたちにしあわせを運ぶチョコレート」(2015年、合同出版)がある。

佐藤有希子/ソーシャルビジネス推進事業 チーフ
企業(消費財メーカー)での海外営業やサプライチェーン管理の経験を経て、MBA取得後、開発経済学を学び2018年ACEに入職。​児童労働のない経済循環の実現を目指し、個別企業の活動を通じた取り組みの支援や啓発と、国内外の多様なステークホルダーとの連携を通じた取り組みの促進に従事。

現状を知り、行動を変えてもらうために。

ーーACE25周年、おめでとうございます!ガーナのカカオ生産地での児童労働にずっと向き合ってきたACEが、オリジナルのチョコレートを作るまでには長い道のりがあったのではないでしょうか。

白木:そうですね。これまで現地パートナー団体や住民、行政と協力しながら、カカオ農園で危険な労働に従事する子どもたちを解放してきました。それと同時に、日本のみなさんに「私たちが食べているチョコレートの背景には、児童労働という現状がある」と伝える活動も長年おこなっています。

佐藤:「チョコレート」は消費者の方々にも伝わりやすい切り口です。特にバレンタインデーの時期は、活動当初からイベントや寄付つきのチョコレートの販売などをおこなってきましたね。

白木:チョコレートを食べる人たちが現状を知って社会全体が変わっていかなければ、児童労働は解決できない問題ですからね。児童労働を知ってもらうために、チョコレートのプロジェクト開始当初は「しあわせを運ぶ てんとう虫チョコレート」と名付けた寄付つきのチョコレートを販売していたこともありました。その頃はまだ「自分たちの活動地域のカカオで、児童労働のないチョコレートを作る」というのは、夢のようなことだったんです。それが実現して嬉しいですね。

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佐藤:私は2018年にACEに入り、2020年から「しあわせへのチョコレート」プロジェクトのメンバーになりました。「ソーシャルビジネス推進事業」の担当として、日本企業に行動変容を働きかけるのが主な役割です。社会を変えていくためには消費者だけでなく、企業の動きも大きな影響があります。

白木:実は有希子さんがACEに入る前に一度、活動地域で採れたカカオ豆を使ったチョコレートを作ったことがあるんです。

佐藤:そうだったんですね!

白木:2017年頃だったかな。そのときも今回と同じくクラウン製菓の鶴田絹さん(当時は立花商店に所属)に製造を協力してもらって。ただ、それがすごく大変だった!チョコレートを作るのも販売するのも、本当に苦労したんです。

佐藤:そんな過去があったとは……。商品を作って販売するのは大変ですもんね。

白木:今回は、メーカー勤めの経験がある有希子さんが、生産工程をまとめたり在庫管理をしてくれたりして、すごく助かってます。

佐藤:私もこんな形でお役に立てるとは思っていなかったから、よかったです(笑)

みんなと一緒に、チョコレートを作りたかった。

ーー今回の「ANIDASOƆ-アニダソ」チョコレートは、ACEのおふたり以外にも、さまざまな方々が企画から関わっていますね。

白木:これまでチョコレートの企画や販売で苦労してきたからこそ、ACEの外にいる人たちの視点を入れた方がいいと感じていました。実際に出来上がってみて、改めて自分たちだけでは完成しなかったチョコレートだと思います。

佐藤:今回、クラウン製菓の鶴田絹さんに製造、チョコレートジャーナリストの市川歩美さんに監修としてチームに入っていただきました。おふたりに参加してもらいたいというのは、もうアイディアが出た段階で決まっていましたよね。

白木:そうですね。鶴田さんは以前からACEの活動地域のカカオを使ってチョコレートを作ってくれていて、前にオリジナルチョコレートを作ったときにもお力をお借りした人です。25周年チョコレートを作るにあたって、製造部分だけじゃなくて企画から一緒に参加してもらえたらいいなと思って相談しました。

佐藤:チョコレートジャーナリストの歩美さんも、ずっとACEを応援してくださってるんですよね。

白木:歩美さんは10年以上前にイベントでACEを知ってから、企業やパティシエの方にACEのカカオ豆をおすすめしてくれたり、メディアで取材してくれたり。今回新しくチョコレートを作ると決まったとき、ぜひ監修してもらいたいと思ってお願いしました。

佐藤:鶴田さんと歩美さんも交えたプロジェクトチームの初回ミーティングは、2023年4月27日におこなった記録が残っていますよ。

白木:たぶん前々から話はしてたと思うんだけど、ゴールデンウィーク前に急いでキックオフしたことが日付から伝わってきますね……(笑)

佐藤:12月のお披露目が決まっていたのに、このときはまだ焦ってもなくて。それぞれの役割やできることについて、みんなで意見を出し合ったのを覚えています。

白木:そう、まだ時間あると思ってたのに、気づいたら夏になってたんだよね(笑)

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最後の「ACEの活動地域のカカオ豆」を使って。

ーー「ANIDASOƆ-アニダソ」チョコレートに使われているカカオ豆は、「ACEの活動地域」というピンポイントな産地のものです。まず、そういった輸入が可能なことに驚きました。

白木:これはカカオの輸入・卸売業者である立花商店さんのおかげです。2013年頃から「産地エリアを指定してカカオ豆を輸入する」という、今までにない取り組みを一緒に切り開いてくれて、本当にありがたかったですね。ただ実は、ACEの活動地域を指定したカカオの調達と販売は今あるもので最後にしようと、立花商店さんと話し合って決めたんです。

ーーそうなんですか!活動地域のカカオ豆はもう輸入しないんですね。

白木:もちろん現地ではカカオ豆の生産を続けているので、児童労働のないカカオ豆として市場には出回っていくことになります。ただ、ただ、「ACEの活動地域」というごく限られた地域からカカオ豆を調達し続けることは、さまざまな面で負担が多く、困難さが増してきたという事情があるため、一旦は手放そうということにしました。

佐藤:私たちが理想とするのは、一般のカカオ豆すべてが児童労働に頼らずに作られたものになって、普通に流通するようになること。立花商店さんとしても「ACEの活動地域」という狭い範囲ではなく、もっと幅広くカカオ産地に還元していきたいという思いもありました。

白木:実際この数年で、企業がそれぞれのやり方でサスティナブルなカカオ豆を生産・調達し始める変化も起きています。そのなかで「ACEの活動地域」にこだわって原料を輸入してチョコレートを作るよりも、生産地からひとりでも多くの児童労働をなくす仕組みを作って広げていくことのほうが、私たちにしかできないことだという結論になりましたね。

佐藤:今回の25周年記念チョコレートを作るのに、ACEの活動地域から輸入したカカオマス(豆をすりつぶして加工しやすくした状態のもの)の分量がギリギリ足りることがわかったんです。せっかくなら、それを使いたい!と。

白木:ACEの活動地域として輸入から「最後のカカオ」を、「ANIDASOƆ-アニダソ」チョコレートで使えたことを嬉しく思っています。

佐藤:さらに今回新たな試みとして、株式会社UPDATERの協力・協賛のもと、産地からチョコレートになるまでの道のりをブロックチェーンで可視化しました。生産地に思い入れがあるだけでなく、本当に透明性のあるチョコレートにすることができたと思います。

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世界を広げ、希望をつなぐチョコになる。

ーー最後に、ACEのおふたりは「ANIDASOƆ-アニダソ」チョコレートにどんな期待をしていますか。

佐藤:今、これまでACEとはつながりがなかったメディアへの掲載の話も上がっているんです。新しい人たちに届いて、なにかを切り開いていくものだと信じています。

白木:そうですね。チョコレート好きやフェアトレードの世界だけじゃなくて、もっと広い世界に羽ばたいてほしい。今回、鶴田さんや歩美さんという外の人が入ってくれたからこそ、ACEだけではつながれない世界の人たちとつながれたらいいなと思います。

佐藤:チョコが好きな人は、本当にたくさんいますからね。

白木:そういう人たちにこそ、チョコレートの背景にある児童労働の現実を知ってもらえたら嬉しいね。応援や協力してくれる人が増えれば、ACEはそれだけ「現地の児童労働をなくす活動」を進めることができます。「ANIDASOƆ-アニダソ」チョコレートが、たくさんの人の活動の入口やきっかけになっていったらいいな。

佐藤:ぜひ贈り物にもしてもらいたいですね。プレゼントするほどに情報が伝わっていく、広がっていくツールにもなっていくんじゃないかなって。

白木:本当にそう。まさに「ANIDASOƆ-アニダソ」の名のとおり、希望をつないでいくチョコレートになっていってほしいと思います。

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次回は、クラウン製菓の鶴田絹さん、チョコレートジャーナリストの市川歩美さんを交えての座談会です。実際にどうやって味やパッケージを決めていったのか、チョコレートの誕生秘話をたっぷりお届けします!

「ANIDASOƆ-アニダソ」チョコレートの詳細、販売店情報はこちらからご覧ください。

【The journey of ANIDASOƆ】
01:25年間の「希望」をつなぐチョコレート
02:“届けたい相手”を見続けたブランドづくり
03:「支援だからこそ」こだわりたかった味への想い
04:世界を変える選択が、あなたにもあると知ってほしい

(取材・執筆:ウィルソン麻菜)